シタデルカラー:Rebirth

 そういえばすっかり存在を忘れてしまっていたが、押入れの中にシタデルカラーが大量に保管されている。恐らく最後に封を開けて利用したのは2年近く前の話。それから押入れの暗闇の中で、真夏の猛暑も真冬の極寒も乗り越えてきた
……と思われる。

というのは希望的観測で、恐る恐る蓋を開けてみたところ、ほとんどヨーグルト状態になっていた。まさにプレーンヨーグルト。沈殿して粘度が上がった下層部分とうっすら色のついた上澄み液がほんの少し。恐らくあと半年も放置しておけば完全に固形化していたかもしれないギリギリの状態だった。

―それが瓶30本。

 一通り全ての瓶の蓋を開封して中身をチェックしたところ、一応復活させれそうな様子なので非常に手間が掛かるが止むを得ず一つ一つ手作業で再利用可能な状態に持っていくことにした。
シタデルカラーは隠ぺい力が高く、極端にノビの良い性質を持つ水性塗料というのが特徴で、用途としては基本的に水で希釈しながら好みの色合いにするまで調整してから塗装する。つまり本溶剤も蒸発した水を補充して攪拌してやれば復活するはず。軽く振って、現在上澄みとヘドロ部分に分離した溶剤がそのまま混ざってくれれば御の字。これに上から水をスポイトで継ぎ足して振ってやれば解決するだろうと考えファーストプランを実行。

失敗。

ヘドロ部分が思っていたより固まってしまっている。30本全てにスポイトで適量の水を足して周る作業も相当時間が掛かったのでかなりくたびれた。放置しておけば自然とヘドロ部分と上澄みが再び自然と混ざり合う可能性も考慮したが、希望的観測だし、ほとんど凝固したヨーグルト状の下層がそんなに素直に元に戻ってくれるとは思えなかった。下層のヘドロ状の部分は、プレーンヨーグルトをろ過してホエイとヨーグルトを分離した後のヨーグルト本体のような状態でした。

次善のプランとしては、力押しになるが攪拌棒で直接ヘドロ部分をかき混ぜて攪拌してやる方法。しかし、これは想像するだけでも手間と時間と神経(勢いよく混ぜすぎて溶剤を外にぶちまける)を使いそうだったので出来ればやりたくなかった。正直乗りかかった舟なので最後までやるかと渋々ながら腹を決めて、攪拌棒と筆洗い用バケツを用意して一つ一つかき混ぜて周る、その数30本超。単純作業な割りに全然楽しくないし、こぼさないように神経使うし、色同士が混ざったらいけないので攪拌棒をその都度徹底洗浄しなくてはならず、結局1時間以上もその作業を続けていた。苦行すぎる……。

 そんな中でいくつか分かったことがある。
シタデルカラーの瓶はここ数年前に新作のタッパー型の密封率の高い容器に切り替わっていたのだが、旧容器と新容器で明確に凝固率に差があったこと。旧容器では全ての色が満遍なく凝固していて酷い物になると粘土になっていた。その割りに完全に乾燥し固形化していなければ水を足して攪拌するだけで元の水性溶剤に戻った。この辺は水性のメリットだなと思う。また、旧容器の中身と新容器の中身で溶剤の作成時期が違うんだから、新しいほうが物持ちが良いと言えるかもしれない。しかし個人的には旧容器(六角瓶)のほうが蓋の開け閉めがやりやすくて便利だったと感じる。

二つ目は、なぜか分からないがグレー系塗料は他の赤・黄・青・緑等に比べて溶剤の気化の進行度が高かった。例えばShadow GrayやFortress Grayと言ったものだけど、私は過去こればかりを使っていたという記憶はない。むしろ緑系やメタル系のカラーを好んで使って、グレー系塗料ばかりを多用するような使い方はしていなかったはずなのだ。結局この現象は謎のまま。

三つ目。だいぶ苦労したが手間を惜しまなかった分、全てのカラーを復活させることに成功した。但し溶剤としては、との注意書き付きで。これで実際に色を塗装してみて滲んだり着色が悪かったりしたらショックだ。一本400円が30本なので、全て買い直した場合、決して安い金額にはならないのでこれでいいのだ、きっと。

 プラモデル趣味で何年も作り続けれる人を見ると割りと尊敬する。塗料は復活したが、私のモデル熱は復活するかどうか未定だ。死ぬまでに押入れに眠っているメタルフィギュアの分だけでも塗装して片付けてしまいたいと思う。もう一つの押入れに眠っている大量の未作成ガンプラはもう放置確定だ。私もクモやゴキブリが住み着いてそうなあのガンプラ箱の塊には触りたくないしな!
それにしても今回は上手くいって良かった。昔、10年物のMr.カラーとタミヤ水性塗料を発掘したときは完全に瓶の底で凝固していて捨てるのに困った。現在15年物の同スプレー類があるが、アレは無かったことにしたい。俺の押入れにそんなものはないんだ。
スプレーと言えばシタデルカラーの隣にシタデルの下地塗装用スプレー(ブラック・ホワイト)が転がっていた。振ってみたら中の攪拌用金属ボールが甲高い金属音を打ち鳴らした。きっとこの子は生きてる!大丈夫なんだ!そう言い聞かせてそっと元あった場所に戻した。

私の押入れが魔窟と化すのもそう遠い話ではないかもしれない。

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